子どもの身長を伸ばすには? 睡眠編
大手食品メーカーが、小中学生の子どもをもつ母親500名を対象に実施した「子どもの理想の成長」に関する調査によると、約9割もの母親が「子どもの身長を伸ばしてあげたい」と回答しました。
特に男の子に関しては、「父親以上に伸びてほしい」と願う声が85%にものぼり、身長を伸ばすことへの関心の高さが分かります。
子どもの身長は、ある程度遺伝によって決まります。
しかし、身長は遺伝だけでは決まりません。
「同じ両親から生まれたのに、兄弟で身長が全然違う」など、身近な例はいくつもあるはずです。
身長は遺伝の影響を受けながらも、それ以外の要因も大きく関係しているのです。
聞いたところによると、子どもの身長を伸ばしたいという気持ちから、科学的根拠に乏しい食事療法に傾倒している保護者の方もいるようです。
そこで、子どもの身長について悩んでいる保護者の方への参考になればという想いから、
「子どもの身長を伸ばすためにはどうしたら良いのか?」について調べた結果と、
小児歯科医師としての今までの知識と私見を、複数回に分けてお伝えしたいと思います。
今回は、睡眠編です。
身長を伸ばすには、兎にも角にも「睡眠」が大切です。
子どもの低身長を専門にされている、ぬかたクリニック院長の額田先生も産経新聞で
睡眠の重要性を訴えておられます。
以下、掲載文面です。
額田成院長によると、遺伝以外の要素で大切なのは睡眠、栄養、運動の3つ(成長三角形)。
「『寝る子は育つ』というのは本当で、身長を伸ばす成長ホルモンは寝ている間に分泌される。
ところが日本の子供は各年代で平均1時間以上の睡眠不足なのです」。
文部科学省の学校保健統計調査で11歳の子供の平均身長を10年ごとにみていくと、戦後右肩上がりに伸びていたが、25年までの10年間に初めて減少に転じた。最大の原因は睡眠時間の減少とみられるという。
以上 産経新聞より
寝ている間に身長が伸びると言える程、睡眠は大切なのです。
子どもの成長にとって、非常に大切な「成長ホルモン」は、昼間起きているときより、夜寝ているときの方が多く分泌されます。
もし、途中で睡眠を妨げられたり、睡眠時間が短いと、成長ホルモンの分泌が悪くなり、身長の伸びも悪くなるのです。
日本の子どもの睡眠時間ですが、
小学校高学年の睡眠時間の調査結果では、8時間未満が31%もいました。
10時間以上寝ている子は、わずか4%です。
これに対し、世界の子どもは9時間以上が半数を超えています。
特にフランス、イギリスでは半数以上が10時間以上寝ています。
日本の子どもたちは、世界一睡眠不足なのです。
その原因として、TVやゲームやスマホでの動画視聴をやめられず、勉強の時間も遅くなり、結果的に寝る時間が減ってしまっていることが考えられます。
また、寝ることをあまり重要視してこなかった日本の生活文化も、その背景にはあるようです。
科学的根拠に乏しい栄養学に安易に飛びつくのではなく、まずは睡眠の見直しをしていただきたいと思います。
そして十分な睡眠時間の確保だけでなく、「睡眠の質」の向上にも取り組んでいただきたいと思います。
睡眠直後の90分程度のノンレム睡眠の時間こそが、成長ホルモンを正しく分泌させる重要なポイントで、睡眠直後の90分を深く眠れるかどうかが成長の決め手なのです。
そして、成長ホルモンの分泌に欠かせない睡眠の質の向上のためには、鼻呼吸の習慣化が必要不可欠ということも知っておいて欲しいです。
現在、9割もの子ども達が顎の発育不足ですが、顎の発育不足が招く最も大きな問題は呼吸の問題なのです。
歯列が狭いということは口腔内容積が小さいことで、舌の置き場所が狭く舌を後方または下方に下げてしまいます。
そうすると気道が狭くなり、口呼吸になってしまうのです。
「いびき」は睡眠時無呼吸症候群のサインのひとつですが、睡眠時無呼吸症候群にまで至らなくても、深い睡眠を妨げるので是が非でも改善していきたいものです。
特に普段から「口呼吸」が習慣になっている子どもは、舌根が落ち込み気道が狭くなり、いびきのリスクが高まります。
質の良い睡眠には、口腔内容積や歯並びが重要な役割を果たしているのです。
良質な睡眠のためには鼻呼吸が必要で、鼻呼吸のためには舌の正しい位置での維持が必要です。
舌を正しい位置で維持するためには、十分な口腔内容積(水平的にも垂直的にも)が必要なのです。
以下、鼻呼吸を習慣化して睡眠の質を向上し、成長ホルモンを分泌させるために、小児歯科医師としてできること・子ども達に実践して欲しいことを列挙します。
・舌を正しい位置に維持するための筋力が弱く、顎骨の成長不足で口腔内容積が小さいならば、
舌を正しい位置に維持できる機構を持ち、十分な咬合高径を確保できて下顎を前方に誘導することで気道を広くすることができるマウスピースを装着して寝る。
そして同時に舌を正しい位置に維持できるトレーニングを継続し、顎骨の成長を促すトレーニングも行なう。
・口唇閉鎖力が弱く、寝ている時に口があいてしまい口呼吸になってしまうならば、口テープを貼り、同時に口唇閉鎖力を強化するトレーニングも継続する。
・鼻詰まりがあり、鼻呼吸ができないならば、鼻うがい等で鼻詰まりを治す努力をする。
必要ならば耳鼻科を受診する。
以上のようなことが、鼻呼吸の習慣化による睡眠の質の向上に必要です。
あと、知っておいて欲しいことは、寝る前に光の刺激があると、睡眠の質が低下することです。
寝るときは部屋を暗くして、ゆったりと寝られるように工夫することも大切です。
なぜかと言うと、寝る前に光の刺激があると、「メラトニン」という朝に目が覚めて14〜16時間後に周囲が暗いと脳の松果体から出てくる眠気をもたらすホルモンが分泌されないからです。
メラトニンは外界からの光による刺激が松果体に達し生成されるので、朝の強い光を浴びることはメラトニン生成のために大切なのです。
朝日を浴びて目覚めることも睡眠の質の向上には必要なのです。
身長が伸びる期間は限られています。
それを過ぎてしまったらどんなことも効果なしです。
後から取り戻すことはできません。
身長を伸ばすことが可能な年齢は男の子だと18歳、女の子なら16歳くらいまでです。
チャンスを逃さないようにしていただきたいものです。
身長を伸ばす取り組みは、成長期が終わってしまう時期に慌てて実施するのではなく、できるだけ早い時期から実践することも大切だと考えています。
⬆︎「スキャモンの発育曲線」です。
人間は生まれてから成人(20歳)するまでの過程で、身長や臓器が大きく成長していきますが、その成長具合をグラフで示したものがスキャモンの発育曲線です。
スキャモンの発育曲線では、20歳時点での発育を100(%)としたときの成長パターンを
一般型、神経型、生殖型、リンパ型の4つに分類して表現しています。
一般型は、身長や体重、筋肉、骨格などの成長を示したものです。
人間の身長の伸びが大きくなるのは、生まれてすぐの時期と12歳頃の思春期と呼ばれる時期ですが、思春期に入るまでだってなだらかにですが、身長は伸びるわけです。
つまり、子どもはずっと成長期なのです。
ピークの時期にだけ身長を伸ばす取り組みを実践するのではなく、乳幼児期・学童期にも睡眠、栄養、運動の3つ(成長三角形)をしっかりと考慮した生活を送ることが大切と考えています。
身長が高い、低いで人を評価することはできないとは思いますが、背が高いことで得られるメリットは、人生の中で少なからずあるはずです。
そうであれば子どものため、少しでもチャンスがあるならば、科学的に根拠もあり、良いと言われることを実践してみませんか?
子どものうちからの良い生活習慣は、身長の伸びだけにとどまらず、生涯に渡っての健康に繋がっていく、一生の財産となります。
後悔のない子育てと人生の手助けをしたいと考えています。
ご相談下さい。
力になれるように精進します。
次回は、「子どもの身長を伸ばすには? 栄養編」 の予定です。
2022年10月06日 更新